*All the arts by Raphael Andrade (Source: https://www.eitamagazine.com/)

ブラジルのSF雑誌だが、英語版を発行する。それが昨年末、ついに第0号を刊行した新興SF&ファンタジー雑誌Eita!の挑戦だった。出版人たちの思いは資金集めを経て実現に至った。なお、Eita!には「わーっ」や「エーッ」といった意味があるそうだ。多文化なブラジルにおいても、どこでも共通して耳にする言葉。それがEita!である。

同誌の理念を紹介しよう。(リンク先の2と3を翻訳した。

Q. なぜEita!誌が必要だったか。

A.  語るべきブラジルの小説がたくさんあったから。誰かが私たちの作品を翻訳してくれて、それが英語圏の競争が激しいSF誌市場の中で認知され、受容されるのを待つ代わりに、私たちは自分の場所を作ることにした。

Q.Eita!誌に何を期待しているか

A. 国内作家たちを国際的な文芸市場に送り出す橋渡し役を務め、海外の読者がブラジルのジャンル小説を消費するのを促進させたい。

そうして生まれたのがこの雑誌である。

Eita! magazin #000 (Dec. 2020) Cover art by Raphael Andrade

ここでは、第0号に掲載された4短篇を読んだ感想を紹介する。作家たちの本業は様々で、英文学を専攻した英語教師、90年代のテレビゲームを愛するという心理学の専攻者、弁護士、教授・科学者など。

Isabor Quintiere「原核生物たちの小夜曲(セレナーデ)」(The Prokaryotes Serenade)※著者自身による英訳と思われる。

 ある惑星に不時着した、人類に由来する機械は長らく砂浜に埋もれていたが、やがて当地の原始的な生命体に発見される。アメーバのような文化を持たないレベルの生命体たちにとって機械は無意味な発見だったが、なんだか心地のいい振動の発生源として認知され、振動は複製されていく。歌やダンスの原始の形を描いた珠玉のSF。

Miguel Dracul「空中の矢」(Arrows in the air)Translated by Natalle Moura

 ロマンチックなファンタジー。学年や専攻は異なる男子大学生2人が、統計の講義の打ち上げの席で、もう一歩深い仲になるか否かの瀬戸際に至る。背中を押してやろうと矢を放った視点人物「私」ことキューピッドは、片方の学生にその矢を防がれて驚愕する。彼は魔女の血筋で、恋愛なんか要らないので放っておいてくれと言うが……? じれったく、しかし笑顔にさせられるハッピーな物語。初めての恋には誰しも臆病になるし、終わりを恐れていたら始まれない。

Laís Dias「焼きつく」(BURN.IN)Translated by André Colabelli

 燃える世界を舞台にした破滅SF。希望もなく水もない乾いた土地で、水汲みに向かった女性は襲撃に遭う。危うく難を逃れて帰還し、家族に貴重な水を使って必死に労わられるーーリアリズム小説に近いスタイル。

Thiago Ambrosio Lage「魔女の舞踏」(The Witch Dances)Translated by Iana Araújo

  助けを望めない村を襲った疫病禍。村の魔女は儀式の完成のため、舞いながら経緯を思い返す。都市から移住してきて、物おじせず彼女に話しかけてきた科学者。彼女と彼はタッグを組み、妖精に人間をちくっと刺す小鬼を運ばせ、村人たちへ薬を注射してもらう奇策を思いついた。だが、計画を実行に移すための代償として科学者は悪魔に報酬を支払ったのだった。明確に書きすぎないところが私好みの医科学ファンタジー。

マシャード・デ・アシス(1839-1908)「キマイラたちの島」(The Land of Chimeras) Translated by Vanessa Guedes

 『ブラス・クーバスの死後の回想』 (武田千香 訳、光文社古典新訳文庫) の邦訳もある、ブラジルの文学作家。天国のような異界にさまよいこんだ詩人の運命を描く、絢爛たる文学作品。

 以上5篇が収録。また、気鋭の翻訳SF研究家・評論家レイチェル・コルダスコ(イタリア出身・米国在住)による序文と、編集チームによる巻頭言もついている。私のオススメはSFらしいSFの「原核生物たちの小夜曲」だが、「空中の矢」のロマンスも、「魔女の舞踏」の悲哀、「焼きつく」の過酷さもそれぞれに味わい深く、今後の続刊も非常に楽しみになった。応援しています!