インタビュイー(質問を受けるほう):橋本輝幸(はしもと てるゆき) 

2008年から会社員ときどきSFレビュアー。

アンソロジー『2000年代海外SF傑作選』『2010年代海外SF傑作選』(ハヤカワ文庫SF)を編集。

インタビュアー:アンナ・ロルドス・マルティネス

作家、編集者。化学の学位を持っているが、その道を断念し、本の世界に身を捧げた。現在は書店員として働いており、書籍出版の修士号も取得している。SFとファンタジーを書くのが大好きで、多少の短編小説と長編小説3冊を出版している。個人サイト:https://annaroldos.com/

下記〈見えない船〉のメンバーの一人。

La Nave Invisible (見えない船)

〈見えない船〉はスペインの文芸ウェブサイトで、ファンによって運営されている。世界中の女性SF&ファンタジー&ホラー作家の振興と認知向上に努めている。サイトではノンフィクション記事、インタビュー、書評を掲載している。

Website (https://lanaveinvisible.com/tripulacion/)

Podcast (https://lanaveinvisible.com/podcast/)

Twitter (https://twitter.com/LaNaveInvisible)

※本インタビューは2021年1月29日に英語の質問に英語で回答したものである。文責は橋本にあり、翻訳も橋本が担当した。スペイン語訳はこちら

-橋本さんとSF小説との出会いについて教えていただけますか?

子供の頃はファンタジーやホラーを読んでいました。12歳の時にスペースオペラを読んでみたのですが、それはいまいち自分には合わず……。その経験のせいでSFからは距離を置いていました。

しかし17歳くらいの頃、好きな日本の作家がSF賞を受賞したり、ノミネートされたりということがあって、それをきっかけにまた挑戦したいと思うようになりました。そしてまんまと、このジャンルにはまりました。

-Rikka Zineはなぜ、どのようにして生まれたのでしょうか? 編集方針があれば教えてください。また、プロジェクトを始めるにあたって、なにか目標はありましたか?

私はただもっとSFについての文章が読みたいと思っていただけです。あと、取材したいと思う人はたくさんいました。現在の(伝統的な紙の)出版業界の不況は、商業的なニーズを超えた挑戦を許容しません。そこで私は自分自身のZINEを立ち上げました。

最終的な目標は、1. SFの翻訳と紹介を発展させる、2.読者にSFを楽しむ機会を提供する です。もう少し小さな目標としては、翻訳された短編小説を出版したいという思いがあります。

-ZINEは1人で手掛けていますか、協力者はいますか?

これは私の個人的なプロジェクトです。ただし、ZINEが知名度を獲得した結果、SF&ファンタジー界隈の人たちと共同で仕事する機会は増えました。 

-ZINEの名前には、なにか特別な意味があるのでしょうか?

はい、六花は6枚の花びらを意味します。雪の結晶の別名です。私は日本最北端の都道府県、北海道で生まれました。同地は冬のあいだ、雪に覆われています。というわけで私のZINEの名前は、私のルーツを表しています。それから、短くて誰でも覚えやすい名前なので選んだということもあります。

-読者層はどんな感じですか? グローバルですか、日本の人ですか? 世界のSFファンダムとの間にどのような関係性がありますか? 言葉の壁を厳しい障壁と考えていますか、それとも橋を渡すのは容易だと思いますか?

ありがたいことに、両方(日本と日本以外の)の読者を得ています。 

言葉の壁はまだまだ高い障壁だと思います。でも、インターネットのおかげで、壁の向こう側の話を小耳に挟んで、お互いに刺激し合うことが簡単にできるようになりました。昨年は世界中の多くの人にとって大変な一年だったと思います。しかし一方で、オンラインイベントが当たり前になり、一部の人にとってはイベント参加がより身近なものになりました。ちょっと希望がありますね。

日本SFの現状

-アンソロジーや専門誌を中心に、現在の日本SFを少し紹介した記事(「日本のSFの概要:現状」)を執筆されていましたよね。もう少し踏み込んで、現在の状況を簡単に説明していただけないでしょうか。専門の出版社、コンベンション(大会)、賞、日本のSFを取り巻くコミュニティ等はどのようになっているのか、少し教えてください。

この記事を書いたときから、また状況は少し変わってきています。 まず、一部の非SF誌が頻繁にSFを掲載するようになりました。また、非SF系の出版社からもSFの本が出版されるようになりました。非英語圏の言語からの翻訳本も増えてきているようです。

第二に、短編小説をウェブや電子書籍で出版することもやや一般的になってきているようですが、取り組みが成功しているかどうかはまだ判断できません。まだ試行中の段階でしょう。VG+という新しいSFメディアは掌編SFコンテストを開始しました。受賞作品の英語や中国語の翻訳も公開しているのが特徴のひとつです。 

また、著者の許可またはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で、ファンによる英日翻訳を読む機会もできました。

大きな問題点としては、SFイベント(コンベンション)の数は増えていません。スタッフの高齢化も深刻です。日本の大きなSFイベントはほとんどがオンライン化されず、延期に留まりました。スタッフ不足は(オンライン化への)変化も妨げているのではないでしょうか。 

-日本でよく読まれている作品、売れている作品は日本の作品ですか、それとも海外翻訳ですか? 国内と海外、どちらの本が評価されていますか? 日本SFと周辺国家のSF小説につながりはあるのでしょうか? 最後に、日本のSFの国際的な存在感についてご存じですか?

興味深い質問ですね。前提として、私の知る限り日本のベストセラーリストは日本の本が独占しています。翻訳はニッチな市場です。

書籍の取次ぎ会社であるトーハンの2020年のベストセラーリストによれば、翻訳は20冊のうち1冊、『ファクトフルネス』だけです。カテゴリ別に順位をチェックしてみましょうか。小説カテゴリには、10冊中1冊も翻訳書がありません。文庫に限れば、カミュの『ペスト』が20冊中唯一の例外です。結論として、日本では基本的に、日本の著者の書籍のほうが売れると言えるでしょう。 

しかし、翻訳書のファンは小さな集まりではありますが、より熱心です。私はSFやファンタジーのファンは特に翻訳書を愛していると思っています。常に新しいものや他者性を探し求めているからではないでしょうか。

翻訳書はほとんどが英語からの翻訳でしたが、前述したように変わってきています。最近では劉慈信の『三体』三部作が売れ、中国SFが注目されています。日本の作家で研究者の立原透耶さんは『時のきざはし:中国現代SFアンソロジー』というアンソロジーを編集して出版しています。立原さんは、現在のブーム以前からの中国SFの愛好家であり、文化交流を推進してきました。韓国のSFは、日本でも出版が始まったばかりです。隣国の女性作家のSF小説を読む機会が増えてきているのは、とても嬉しいことです。

日本のSFの国際的な存在感については、VIZ Media社のレーベルHaikasoruが廃刊になってからは、英語圏の市場では下がってしまったと思います。一方で、主流文学やライトノベルはさかんに英訳され、高い評価を得ています。

国内の出版業界が縮小しているので、作家や出版社は翻訳への期待を高めているようですね。私は、成功の鍵は翻訳者の育成であり、強力に支援すべきだと思います。

-FutureConの東アジアパネルの中で、池澤春菜さんと藤井太洋さんが、主流文学とSF小説の境界が薄れ始めていることや、伝統ある賞をSF作家が受賞している現況を語っていましたね。橋本さんはどのようにしてこのような変化が起こったと考えていますか? それには映像作品(テレビドラマ、映画、アニメ)、あるいはビデオゲームも寄与していると思いますか?

この変化は日本だけでなく、世界的にも起こっていると考えています。物語の効果を高めるために、あるいは物語をより普遍的なものにするために、SF(スペキュレイティヴ・フィクション)という形式が選ばれるのはなんら不思議はありません。もしかしたら、現実はあまりにもクソすぎて書けないのかもしれません(笑)

私は、マルチメディア作品がこの変化に関係しているとは思いません。しかし一方で、マルチメディア市場にはSF作品が氾濫していて、それがSFを読むことへの抵抗感を減らしている要素の一つなのかもしれないとは思います。私たちの世代はマルチメディア作品に囲まれていて、この20年くらいの間、おおむね世界のどこに住んでいようと有名な映画やコミック、ビデオゲームの思い出を共有していますから。 

-小説、ライトノベル、コミック同士の関連性はどうなっていますか? それぞれに読者や影響力が異なる文芸ジャンルなのか、それとも相互に関連しているのでしょうか? SF小説の読者は、SFマンガの制作についてどのように考えているのでしょうか?

関係はありますね。SF小説の中には、アニメ化やコミック化されたものもあります。代表的なものとしては、神林長平の『雪風』シリーズがあります。早川書房からは、弐瓶勉『BLAM!』のトリビュートアンソロジーが出版されて、錚々たるSF作家が参加しています。ハヤカワはアニメのノベライズを刊行することもありますね。

ライトノベル出版社と非ライトノベル出版社の両方で仕事をしている作家もいます。『裏世界ピクニック』の宮澤伊織、『HELLO WORLD』や『正解するカド』の野崎まど等ですね。彼らはアニメ化や脚本執筆の機会も得ています。

-日本のSFに、英語圏のSFとは違う、あるいは他の近隣諸国のSFとは違う、何か独特の特徴があると思いますか? 

日本のSF読者の中には(SFとしての)新規性・進歩性や、ハードSF、実験的・思弁的なSF小説を好む人たちがいますね。日本や中国のSF読者には、知的に歯ごたえがあったり、知的好奇心を呼びさますSFを好む層があると感じます。この嗜好は世界のどこでもある程度見かけますが、一部の国では特に強い傾向になっています。 

また、サイバーパンクのパロディ――テクノ=オリエンタルな雰囲気や、アニメ、マンガ、テレビゲームの要素、あるいはサラリーマン、大企業の誇張なんかをちょくちょく目にしますね。これらはすべて日本のステレオタイプですが、日本人は結構ステレオタイプをネタにして楽しむことが多いです。

日本でSFを書く女性と読む女性について

-従来、SFは男性優位な場所でした。しかし、ここ数十年で状況は変わりつつあるようです。日本のSFにおける女性の状況は、作家/読者・消費者のそれぞれ役割において、どのようになっているのでしょうか?

SF専門の出版社などからは、読者の男女比は男性:女性=6:4か、7:3くらいだと聞いたことがあります。もちろん作品や作家によってこれは変わりますが。プロの作家や評論家の比率はもっと偏っています。

日本SF大賞の受賞者の女性比を大まかに調べてみました。 (特別賞はカウントせず)

1980-1989 0%

1990-1999 33%

2000-2009 16%

2010-2019 17.6%

続いて過去20年間の星雲賞受賞者を見てみると、日本長編部門が15%、日本短編部門が5%程度です。 

私が思うに、この惨憺たる結果の理由のひとつは、日本における女性研究者の割合の低さ(17%未満)ではないでしょうか。

一方で、漫画や少女向けヤングアダルト小説の分野では、多くの女性が成功し、高い評価を得ています。現に、日本SF大賞の女性受賞者の一部は、萩尾望都(1949-)や白井弓子(1967-)といった漫画家です。また、文学賞受賞者の中には、SFやファンタジーと定義されるような主流文学を書いている人もいます。 

-私たちは近年、女性が書いた小説がSFとファンタジー両方で爆発的に増えているという認識です。これは、この種の小説のトレンドを作る中心である英語圏の市場での傾向ですが、小規模ながらスペインでも起こっていることです。日本の状況はどうですか?同じような経験はされましたか? 

残念ながら、日本ではそういった(女性SF作家の急増)という傾向が起きているとは思えません。老舗出版社や名作、昔からのプロやファンはそう簡単には変われません。私自身が将来、時代に取り残されないとは到底思えませんし、経済不況のせいで商業出版社が慎重かつ保守的な傾向になるのも理解しています。急な変化の難しさはよくわかっていますとも。

でも、女性の読者はたくさんいると知っています。あとはきっと、これからの世代のロールモデルとなるようなプロが必要なのです。

作家たちは、もはや従来の出版市場にのみ頼っているわけではありません。電子書籍にせよ、印刷された本にせよ、両方を自費出版することができます。小説を投稿できるプラットフォームもあります。伝統に縛られる必要は全くないし、ジャンルの境界に気をつけすぎる必要もおそらくありません。

-前述のパネル(FutureConの東アジア企画)では、日本のパネリストが、日本にはフェミニズムSFはおろか、ジェンダーについて探求するようなSFすらあまりないと話していました。一般のSFファンや作家はそれを認識していますか? つまり、SFファンの中に表象が不足していると考えて、解決方法を模索している動きはないのですか? それとも、日本のSFファンにとってはこれらは特に興味のない問題なのですか。

その話は、より正確に表すとすれば、SF専門の出版社からフェミニズムSFが出版されるのはあまり見かけなかったということです。しかしフェミニズムSFの例がないわけではありません。

ジャンル小説(のファンダム)においては「政治的な話はやめてくれ!」とか「娯楽だけ提供してくれ!」という意見は根強いです。個人の意見ですが、日本では、社会に対してインパクトある働きかけのために立ち上がることがあまり褒められません。和を乱すことへの忌避感が他の国より高いです。誰もが社会に溶け込むことを余儀なくされます。なにかを主張することは、題材がなんであろうと、しばしば和を乱しているとみなされます。 

さておき、日本のフェミニズムSFを探すには、専門出版社以外も探したほうがいいでしょう。ジャンルなんて所詮マーケティングやパッケージに過ぎませんし。日本にはジェンダーSF研究会というグループがあり、私は会員の皆様の嗜好に完全に賛同するわけではないものの、特に初期の受賞作品が名作や隠れた逸品であるのは間違いないと思っています。ちなみに昨年、私はこの賞のゲスト審査員を務めました。

アンナさんが懸念されていた問題は、今の時代、当然のことながら注目され、考慮されています。特に若い世代は憂慮しています。そして男性以外の作家さんもいいペースでデビューしています。ですから、この件については私はあまり悲観していません。 

※読者のために、ここで注意喚起しておきたいことがあります。世の中には、ジェンダーアイデンティティとしてノンバイナリー、ジェンダー・フルイド、ジェンダークィアを名乗る人たち、そしてクエスチョニング(考え中)の人たちもいるのです。私たちはジェンダーの二元性だけで区切られてはいけない。私たちは、どうすれば真に包摂的になれるかに気を配り、お互いにうまく付き合い、そして新しい作家たちを歓迎する必要があります! 

-最後に、日本のSF文学の中で、英語で読めるものと読めないもの(できれば女性作家のもの)で、お勧めのものを教えてください。

では、私の好きな女性作家で、まだあまり翻訳されていない方を紹介しますね。

高山羽根子(1975-)は、創元SF短編小説賞を受賞し、2009年にデビュー。2014年、東京創元社から初の短編集が刊行されました。同書は日本SF大賞にノミネートされました。また、同書に収録された短篇が星雲賞の日本短編部門にノミネートされました。2020年、彼女は主流小説作品で芥川賞を受賞し、三島由紀夫賞にもノミネートされた。彼女のSF長編『暗闇にレンズ』は架空歴史ものであり、ディストピア小説でもある傑作です。

藤野可織(1980-)は数々の賞を受賞している主流文学作家ですが、大森望・日下三蔵編の年刊日本SF傑作選に選ばれたこともあり、最近の作品はスペキュレイティヴ・フィクションに接近しています。『木幡狐』という作品、ウェブ上に英訳が公開されています。(翻訳:マック・ギル)  これはフェミニズム・ファンタジーですね。藤野さんは奇妙で、面白くて、ダークな短編をたくさん書いています。

あと萩尾望都の名作マンガも一読の価値ありです! 他にも挙げればきりがありませんが、今回はこれで終わりにします。どうもありがとうございました。